通貨戦争の覇者・哲学者?ジョージ・ソロスの再帰性理論

市場を席捲した伝説のヘッジファンド列伝vol.2は、かつて「イングランド銀行を潰した男」と言われた投資家、ジョージ・ソロスです。

彼の生き様や再帰性理論などについて少し考えてみようと思います!

 

さっそくですが、株価やFXなどの相場は何によって決まるのでしょうか?

「投資家は常に合理的であり、一時的に価格がぶれても経済や金利動向・企業業績などによって決まる合理的価格に均衡する」

かつては、ファンダメンタルズを重んじる市場均衡理論が主流を占めていました。

では市場があくまで合理的とするなら、なぜ相場は時としてバブルと呼ばれるような過熱と急激な下落を繰り返すのでしょうか?

暴利をむさぼる「恥知らず」

1990年代後半のアジア通貨危機においてタイやインドネシアがIMFによる救済を受け入れ、その後の緊縮財政や規制自由化を強いられる中で、マレーシアは救済を拒絶し、資本統制の断行により危機を乗り切りました。

マレーシアのマハティール首相は大のヘッジファンド嫌いで知られ、ソロス氏らを「通貨危機を引き起こした張本人」であるとし、

特にソロス氏を「暴利をむさぼる恥知らず」と名指ししたのです。

一方でソロス氏は慈善家・自由化を目指す政治運動家そして博士号をもつ哲学者としての顔を持ち、ただの拝金主義者とは違う別の一面が見えてきます。

紆余曲折の人生

ハンガリー系ユダヤ人のソロス氏。

戦時中はナチスの迫害から生き延び、戦後ハンガリーを離れたのちも皿洗い、ペンキ屋、プールの監視員やハンドバッグ売りなど職を転々としたといいます。

浮浪の毎日の中で、ソロスはアダム・スミス、トマス・ホッブスなどの著書に没頭しました。

とくにソロスが傾倒したのは、同じユダヤ系哲学者のカール・ポッパー。

ナチスの迫害を逃れて祖国オーストリアを捨てたポッパーに、ソロスはシンパシーを感じたのかもしれませんね。

26歳にして、ソロスはようやく投資の世界に身を投じます。

名門投資銀行を門前払いされたソロスは、ウォール街の亡命ハンガリー人が社長を務めるブローカー会社に潜り込みますが、ソロスは5年間で足を洗って哲学者の道を歩むつもりでした。

しかしソロスは業界でメキメキと頭角を現し、哲学者の夢はあきらめざるを得ませんでした。

37歳のころには老舗ブローカー会社アーノルド&ブレイクロウダーの調査責任者に昇進、アルフレッド・ジョーンズのマネージャーとも親交を深めるようになり、39歳の時には400万ドルの運用資金で「ダブル・イーグル・ファンド」を立ち上げました。

ソロスが編み出した打ち出の小槌「再帰性理論」

ソロスが編み出した打ち出の小槌「再帰性理論」
参照:MoneyVoice

ソロスの敬愛するポッパーは、「人間は真理を知ることができない」とする知的不確実性を基本理論とします。

ソロスは、金融の経験・知識と「知的不確実性」理論を結び付けて新しい理論「再帰性理論」を編み出します。

株式や市場において投資家たちの相場に対する「認識」は、相場という「現実」に変化を与えます。

そして変化した現実が「認識」に働きかけます。そして変化した現実が「認識」に対し・・・といった具合に無限ループを繰り返していくのです。

 

人間は現実をありのままには認識できず、さらに不明確な認識に現実が左右されてしまいます。

例えば、2011~2017年の7年間で日経平均株価は2.5倍以上高騰。

金利や企業業績などファンダメンタルズの追い風はあったにせよ、それだけでは説明がつきません。

つまり「株は上がる」という投資家の思惑が株価高騰という現実を産み出し、さらに高騰の現実が投資家の認識を煽る、この繰り返しで株価上昇に弾みがついたのです。

しかし上げ調子一本の相場は、過去のブラックマンデーやリーマンショックでも明らかなように、いつか終わりが来ますね。

ソロスの「再帰性理論」は、終末期のタイミングを見出すことができる「打ち出の小槌」。

そして小槌のおかげで、ソロスのファンド(1978年にクオンタム・ファンドに名称変更)は10年余りで運用資金総額を100倍近くにまで増やします。

一世一代の大勝負

米財務長官ジェイムズ・ベイカーは、イギリス・西ドイツ・日本の財務当局をNYプラザホテルに集め、ドル安を目指した為替介入を要請

ソロスを一躍有名にしたのは、1985年の円高ドル安です。

9月22日、米財務長官ジェイムズ・ベイカーは、イギリス・西ドイツ・日本の財務当局をNYプラザホテルに集め、ドル安を目指した為替介入を要請しました。

これがいわゆる、「プラザ合意」です。

プラザ合意とは

1985年9月22日、先進5か国 蔵相・中央銀行総裁会議により発表された、為替レート安定化に関する合意の通称。

当時アメリカは巨額の赤字を続けてきましたが、FRBが高金利政策をとってきたこともあり、だれしもドル高を疑いませんでした。

それがプラザ合意で一挙に崩れ、我先にと円買いドル売りに走ったのです。

ソロスがプラザ合意を事前に知っていたわけではありませんが、彼だけはドル高の危うさを見抜き、少しのきっかけで反転すると読んでいたのです。

その読みは、ソロスのクオンタム・ファンドに2.3億ドルもの報酬をもたらしたといわれています。

 

ちなみにアジア通貨危機以降、稀代の錬金術師ソロスは大きな勝負に出ていません。

最近ではオープン・ソサイエティ財団等を設立し、慈善・政治活動に巨額の資金を寄付しているとか。

彼はグローバル主義・左翼的思想を信奉し、国家・国境の概念を否定し、自由貿易浸透や妊娠中絶や麻薬の合法化までさまざまな運動を支援しており、最近ではホンジュラス・グアテマラなど中米からの移民キャラバンを支援して賛否の議論を巻き起こしました。

こんな調子なので、祖国ハンガリーのオルバン首相をはじめ独裁者や独裁傾向の強い支配者からは嫌われ、保守系メディアからは激しいバッシングを受けているんです。笑

ヘッジファンドの表舞台からは身を引いても、ジョージ・ソロスの動向からは相変わらず目が離せませんね。